相続紛争

預貯金の使い込み問題(使途不明金問題)【相続不動産専門 税理士 兼 弁護士が解説】

みなさんこんにちは。

相続と不動産で困った時の一番最初の相談先、

相続と不動産のパーソナルアドバイザー、税理士 兼 弁護士の中澤剛です。

 

この記事では、相続における、預貯金の使い込み問題(使途不明金問題)について

解説します!

預貯金の使い込み問題(使途不明金問題)とは

相続における預貯金の使い込み問題とは、典型的には、亡くなった認知症の方(被相続人A)と同居していた相続人B、同居していない他の相続人Cがいる、というケースで、被相続人Aの預貯金が不自然に引き出されている形跡があるときに、相続人Cが、「Bが同居していたのをいいことに、Aの預貯金を使い込んだのではないか」と疑うようなケースです。

被相続人Aの預貯金が引き出されたりしていることは預貯金の通帳履歴などを見れば判明するのですが、その用途が不明な場合なので、「使途不明金問題」とも呼ばれます。

使い込みを確認する方法

 

使い込みがあったか否かは、どのように確認するのでしょうか。

先ほど少し述べましたが、預貯金の取引履歴を入手することで、不自然・多額の引き出しがあったり、不自然な送金があったりすれば、使い込みの疑いが出てきます。

例えば、被相続人Aの老後の毎月の平均的な生活費は15万円程度で、預金口座からは数年にわたり毎月15万円程度が引き出されていたとします。

ところが、亡くなる前の1年の間に、突如、ATMから1回あたり50万円の引き出しが連日行われ、1か月で時には350万円、合計で3000万円が引き出されている形跡があったとします。

このような場合には、この引出行為は従前の生活状況から大きく乖離しているので、「不自然な引出行為だな、なぜだろう」、と使い込みの疑いが出てくる、というわけです。

預貯金の取引履歴の入手

それでは、預貯金の取引履歴は、どのように入手するでしょうか。この点には、大きく3つの方法があります。

  1. 相続人が金融機関に問い合わせる
  2. 弁護士を利用して、弁護士会照会を行う
  3. 裁判所による照会を行う

相続人が金融機関に問い合わせる(①)のが一番簡便な方法です。

取引履歴を求めると、金融機関によっては、「取引履歴の開示には応じられません」などというとんちんかんな回答をする金融機関もありますが、そのような時は、「『金融機関の預金者に対する取引履歴の開示義務を認めた最高裁判所の平成21年1月22日の判決をご存知かと思いますが、、、』と弁護士が言っています」などと言えば、大概の金融機関はそれで対応してくださるかと思います!

それでも応じてくれない場合にはご相談ください!

弁護士の利用、裁判所の利用についてはここでは割愛しますが、色々自分でやるのは面倒だという方は、お金はかかってもいいのであれば、弁護士の利用をすることもあり得るかなと思います。

使い込みが発覚した場合の対処法

取引履歴を入手した結果、先ほど述べたような不自然な引出や送金が判明した場合には、どのように対処していくべきでしょうか。

問い合わせ

まずは、その使途不明金について、使途を知っているかを同居していた相続人などに問い合わせることとなります。

具体的には、「被相続人の預貯金口座の取引履歴を見ると、〇年〇月〇日には〇万円が引き出されているが、誰が引き出したのか、何のために(どの使途のために)引き出したのか」などと尋ねます。

また、同時に、当時の被相続人の状況(元気だったのか、要介護状態であったのか、要介護状態であるとしてそれはどの程度か、認知症などの疾患があったのか、仮にあったとしてその程度はどの程度か)についても問合せます。

場合によっては、当時の被相続人の状況について行政機関等から情報を収集する場合もあります。

納得性・妥当性のある回答がある場合

問い合わせた結果、被相続人が使ったというケースもあれば、同居相続人は何も知らないというケースもありますし、同居相続人が引き出したが、何か正当な理由(例えば、被相続人の医療費など)に使ったという場合もあります。

ある程度明確で、かつ妥当性のある回答が得られれば、「使途不明金問題」は解明されたこととなり、終了です。

使途不明金の用途については、1円レベルにこだわる方もいますが、ある程度、使途不明なお金が残るのは止むを得ないところで、だいたい、大まかでおかしくなければ、使途不明金問題としては解決したものとして扱うことが合理的といえます。

自分のお金の使い道さえ1円レベルで収支が合わない人も少なくないでしょう。

いわんや、亡くなった人のお金の使途など、相続人であっても細かく分かる筈はないのです。

 

妥当性のある回答がない場合

問題は、

  • 回答がない
  • 曖昧な回答である
  • 不合理な回答である(例えば、預貯金がATMから引き出された日には既に被相続人は寝たきり状態であったのに、「現金をATMから下ろしたのは被相続人である」等というあり得ない回答だった場合など)

といった場合です。

この場合には、使途不明金問題は解決せず、さらに粘り強く交渉してもどうしても折り合わない場合には、裁判などに発展する可能性もあります。

裁判になると、法律的にこまごまとしたややこしい問題がたくさんありますので、弁護士を利用されることを強くお薦めします。

使い込みが罪になるか

さて、預貯金の使い込みは、犯罪になるのでしょうか。

刑法という犯罪と刑罰について定めた法律によると、預貯金の使い込みは、窃盗罪や横領罪という犯罪に該当し得ます。

しかし、親族によって窃盗罪や横領罪という犯罪行為が行われても、それは通常は起訴できないまたは起訴されても刑を免除されることになっています。

「親族相盗例」などと言われます。

結局のところ、身内の使い込み事件について、犯罪として警察や検察に動いてもらうことは難しいのが通常です。

時効に注意

預貯金の使い込み問題を追求したいという場合には、「不法行為」責任や「不当利得」の返還請求という形で支払いを求めていくのが通常です。

(使途不明金が、実は被相続人から同居相続人への贈与であると判明した場合には、特別受益の問題となり得ます。その場合には、特別受益は遺産分割あるいは遺留分侵害額請求において考慮されることになります。)

不法行為、不当利得いずれにしても時効があるので、その点だけは注意が必要です。

不法行為として責任追及する場合には、損害及び加害者を知った時から3年です。

使途不明金問題では、通常は亡くなった後に損害を知ることになるでしょうが、いつ損害及び加害者を知ったといえるのかは争いになり得るので、まずは引出行為がなされた時点から3年以内に損害賠償請求を行うのが安心です。

どんなに遅くとも、亡くなった時点から3年以内には損害賠償請求を行わないと、時効により消滅してしまう可能性があるので注意が必要です。

不当利得は、権利を行使することができる時から10年、権利を行使することができる事を知った時から5年で時効になります。

使い込みを疑われてしまった場合の対応法

逆に、使い込みを疑われてしまった場合は、どのようにするのが良いのでしょうか。

まずは、後に述べるような、使い込みの疑惑を招かないような事前予防策を取っておくことが重要です。

しかし、後に述べるような予防策を取れない場合にできることをご説明します

簡単にいえば、「誠意をもって説明を尽くすこと」です。

さきほど、使途不明金問題が発覚した場合、非同居相続人としては、同居相続人に問い合わせる、と記載しました。

問い合わせた結果、同居していた相続人から、納得のいく回答が得られたら、無事に解決するわけです。

逆に言えば、問合せをしてきた他の相続人に納得してもらうべく、あらん限りの資料や記録を揃えて、誠意と説明の限りを尽くすことが重要です。

また、もしも仮に実際に使い込みをしたというのであれば、過ちを認め、謝罪し、金銭的にも責任をとられることを強くお勧めします(嘘を隠し通すための弁護は、少なくとも当事務所では行いません)。

使い込みの紛争を予防するための事前予防・利用できる制度

同居している相続人が、使い込みの疑惑を持たれないようにするためには、さまざまな対応が考えられます。

  1. 非同居親族とのコミュニケーションを密に取ること
  2. 支出については、極力領収書などの記録を残すこと。領収書がなくとも、家計簿などの記録をとり、説明できる状況を残すこと
  3. 被相続人の健康状態についても、日記などに克明に記録を残すこと。入通院している病院についても明確に記録を残すこと
  4. 本人の認知能力が衰えてきたら、速やかに成年後見制度を利用すること&後見制度支援信託を利用すること
  5. 家族信託等を利用して、高額の預貯金等については受託者に管理させることし、被相続人の財産から切り離すこと
  6. 不動産の購入等、使い込みの困難な資産への換価

①、②や③については、専門家の助力がなくても可能なことですので、特に被相続人と同居されている相続人におかれては、無用な誤解を招かないために、慎重にも慎重を期して準備・対策されることをお勧めします。

亡くなられる被相続人にとっても、残された親族、特に子供たちが無用の争いをすることは望まないはずです。

無用の争いを防止するためにも、ぜひ、事前の紛争防止のために手を打たれることを強くお勧めします。

 

 

ABOUT ME
弁護士 中澤 剛
相続と不動産の法律と税金を専門に扱う千代田区内唯一の弁護士 兼 税理士。 相続紛争など、家族にまつわる紛争案件と紛争案件の経験を生かした紛争予防(相続紛争や認知症によるトラブルの生前対策、税金対策)が強み。 「幸せの土台は家族関係」という想いから、日本中に感謝と敬意のある家族関係が増えることを目指して活動中。 息子(10歳)&娘(7歳)の父。 2010年弁護士登録。2018年税理士登録。 東大法学部卒。東大ボート部出身。淡青税務法律事務所所長。 倫理法人会、中小企業家同友会所属。
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