遺言

遺言の成立日と違う日が記載された自筆証書遺言は有効か

みなさんこんにちは。

相続と不動産で困った時の一番最初の相談先、

相続と不動産のパーソナルアドバイザー、税理士 兼 弁護士の中澤剛です。

遺言には、大きく分けて、手書きの遺言(自筆証書遺言)と、公証役場で作る公正証書遺言があります。

そして、自筆証書遺言が有効となるためには、全文、「日付」及び氏名を自署し、押印しなければならないとされています(改正法により、目録部分については自署性は不要とされましたがここでは詳細は割愛します)

この記事では、自筆証書遺言に記載するべき「日付」はいつであるのか、という点について、最高裁判所の令和3年1月18日判決等をふまえて解説します!

日付が要求される理由

そもそも、自筆証書遺言に「日付」の記載が要求されるのはなぜでしょうか。

それは、その日付の記載がないと、遺言能力の有無の判断ができないですし、また、遺言の作成の先後関係が明らかにならないと困るからです。(おまけですが、特別方式の遺言か可能か否かという状況にあったのかを判断するためにも、日付情報が必要です)

例えば、遺言者が平成30年に認知症になっていたとして、遺言が平成28年に作成されていたのか、令和2年に作成されていたのか、どちらかによってその遺言が遺言能力がある状態で作成されたか否かの判断に影響があるわけです。

また、遺言が平成28年と令和2年に作成されていたとします。この場合、前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分は、後の遺言で撤回したものとみなされます。

そのため、遺言がいつ作成されたのか、日付の記載が不可欠というわけです。

書くべき「日付」は、真実、遺言が成立した日

ところで、ここでいう「日付」とはいつを記載するべきなのでしょうか。

例えば、遺言を5月1日に書き始めて、全て書き終えたのが5月4日で、でも印鑑が見つからず、翌日印鑑を見つけて、押印したのが5月5日だったという場合、自筆証書遺言の「日付」として記載するべき日はいつなのでしょうか。

この点については、全ての自筆証書の遺言の方式を満たし、自筆証書遺言の要件が完成した日が、自筆証書遺言に完成した日として書くべき「日付」になります。

昭和52年4月19日の最高裁判例です(異論もありますが一応通説ともされています)。

上記の例で言えば、押印したのは5月5日であり、これをもって全て自筆証書遺言が完成したのですから、自筆証書遺言に書くべき日付は5月5日、ということになります

要するに、自筆証書遺言の日付として書くべきなのは、真実遺言が成立した日、言い換えると、遺言が最終的に完全に完成した日、ということになります。

書くべき「日付」と違う日付を書いてしまった場合に、遺言は無効となるか

では、先ほどの例で、遺言の作成日の日付を(本当は5月5日とするべきなのに)5月4日としてしまったという場合、その遺言は無効になってしまうのでしょうか

間違っているのだから無効とするべきだ、ともいえそうですし、そんな細かいことで無効としたらせっかく遺言を作ったのに遺言者が可哀想だ、ということも言えそうです。

この問題は、大きく言えば、遺言者が亡くなっていることから生じる遺言という制度が持つジレンマそのものが背景にあります。

つまり、遺言が効力を生じるのは、遺言者が死亡した時点であるため、遺言者自身の意思を遺言者に確認することが絶対にできないわけです。本当に遺言者自身の意思なのか本人に確認することができないため、自筆証書遺言については、全文を自署しろとか、いろいろと厳しいルールがあるわけです。それによって、本人自身の意思だということを担保しようとしているわけです。この厳しいルールは、安易に破ってはいけない。破るような遺言は無効としなければならない。これが一つの要請です。

他方で、簡単に無効にしてしまうと、もはや遺言者は死んでしまっている以上、遺言者の想いを法的に実現することはできなくなってしまうわけです。遺言者の意思を実現しようとする制度が遺言なのに、簡単に無効にしていいのか。遺言者の意思を極力尊重してあげる必要がある。簡単に無効にしてはいけない。これがもう一つの要請です。

このように、遺言者の真意を担保するために厳格なルールを設けるべき(反する遺言の効力は無効とする)という要請と、簡単に無効にするなという要請、この2つがぶつかり合うのが、自筆証書遺言にルール(方式)違反があった場合の問題の核心といえます。

日付の書き間違いに関するこの2つのせめぎあいの問題(正しい日付を書くべきだ。間違っていたら無効だ vs 無効にしたら本人が可哀想だ)に関して、

最高裁判所は、

誤記であること及び真実の作成の日が遺言証書の記載その他から容易に判明する場合には、遺言は無効としない、と判断しています(昭和52年11月21日の最高裁判決)

また、誤記であることが明白でなくとも、日付などの記載を要求したのが遺言者本人の意思の確保にあるのだから、必要以上に厳格に遺言の方式の遵守を要求しては(方式に違反すれば無効としてしまえば)、かえって遺言者本人の意思の実現が阻害されてしまうといいます。

令和3年1月18日最高裁判決の判断

以上のような考慮要素をふまえて、

令和3年1月18日判決は、

・入院中に遺言書の全文、日付、氏名を自署し、

・退院して9日後(全文の自署から27日後)に押印した

・押印の際には弁護士が立ち会った

という事実関係の下では、遺言は無効としない、と判断しました。

この判決は、本来は遺言書に作成日として記載するべきだったのは押印した日である(つまり、遺言のルールを完璧に守った遺言であるというわけではなく、問題のあるルール違反の遺言である)が、そうでない日が記載されているからといって、この遺言を無効としないものとしています。

遺言成立日が比較的明確であることと、日付と遺言成立日との乖離が乏しいこと(1か月以内にとどまる)、遺言作成者が全文を記載した日を遺言作成の日とすることもやむを得ない面があること等の事情を踏まえて、遺言を無効としなかったものと考えられます。

まとめ

今回は、令和3年1月18日の最高裁判決を紹介しました。

この判決は、簡単に言えば、「ルール違反はあるけど大した違反じゃないから無効にはしないで許してあげる」という判決です。

とはいえ、これから遺言を作成する方にとっては、そんな危ない橋を渡ることなく、そもそもルール違反をしないことの方が絶対的に重要です。

実際、この事件でも、高等裁判所の段階では、遺言が無効であると判断されています。怖いです。

自筆証書遺言を作成する場合には、複数日にわたって作成することがあるため、作成日をどうするのか迷いが生じてもおかしくないところです(実際に、この裁判例で立会をした弁護士は、遺憾ながら、押印した日と作成日とが異なっていても問題ないと思ってしまったのでしょう)。

この判例がこのケースで遺言を有効としたということよりも大切なのは、押印まで含めて全て完成した日が作成日である、というルールを把握しておくことです

これから自筆証書遺言を作成しようとする方や、遺言書の作成に関わる専門家の先生は、この点に気を付けて遺言を作成するようにしましょう!!!

今回も最後までお読み頂きありがとうございました!

 

ABOUT ME
弁護士 中澤 剛
相続と不動産の法律と税金を専門に扱う千代田区内唯一の弁護士 兼 税理士。 相続紛争など、家族にまつわる紛争案件と紛争案件の経験を生かした紛争予防(相続紛争や認知症によるトラブルの生前対策、税金対策)が強み。 「幸せの土台は家族関係」という想いから、日本中に感謝と敬意のある家族関係が増えることを目指して活動中。 息子(10歳)&娘(7歳)の父。 2010年弁護士登録。2018年税理士登録。 東大法学部卒。東大ボート部出身。淡青税務法律事務所所長。 倫理法人会、中小企業家同友会所属。
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