みなさんこんにちは。
相続と不動産で困った時の一番最初の相談先、
相続と不動産のパーソナルアドバイザー、税理士 兼 弁護士の中澤剛です。
【この記事は、弁護士、司法書士、行政書士、税理士等の専門家の方向けです】
この記事では、民事信託(家族信託)を利用するために委任契約を締結した司法書士に対する不法行為責任が認められた事例である、東京地方裁判所令和3年9月17日判決をざっくりと解説します。
※本記事は、一般の方向けではなく、司法書士や行政書士など民事信託を扱う先生向けの記事です。
事案の概要
高齢者Xが、やや老朽化した自宅ビルを信託財産として、自身を委託者兼受益者、息子Zを受託者とする民事信託契約締結の事務処理を司法書士Yに委任した、という事案です。
※分かりやすさを重視し、実際の事案をかなり簡略化しています。正確には上記裁判例(掲載誌:金融商事判例1640号40頁等)を参照してください。
事案の特色
この事案のポイントは、信託財産である自宅ビルについて、将来大規模修繕が必要となり得ることから、信託財産である自宅ビルに対して抵当権を設定し金融機関から融資を受けることができるようにしたいという要望がX及びZにあった、という点です。
ところが、Zを受託者、自宅ビルを信託財産として信託契約を締結したものの、当時、信託財産に対して抵当権を設定し融資することに実務的に対応している金融機関はほとんどなく、あってもそのための信託口口座の開設が必要となり、そのためには厳格な手続きが必要でした。
そして、Yが作成した信託契約書では、自宅ビルに対して金融機関から抵当権を設定して融資を受けることが不可能でした。
XやZからすれば、「融資が受けられないのでは困る!こんな民事信託では意味がない!」ということになります。
そのため、XからYに対して損害賠償請求がなされました。
判決の概要
本件判決においては、
司法書士であるYは、委任契約を締結するに先立ち、Xに対し、信義則に基づき、
金融機関の信託内融資、信託口口座(狭義)等に関する対応状況等の情報収集、調査等を行った上で、その結果に関する情報を提供するとともに、
信託契約を締結しても信託内融資及び信託口口座(狭義)の開設を受けられないというリスクが存することを説明すべき義務を負っていたとして、
説明義務違反に基づいてYに対する150万円(注:主に司法書士Yへの報酬額です)を超える損害賠償責任を認めました。
※分かりやすさを重視し、裁判例の判示内容についてもかなり簡略化しています。正確には上記裁判例を参照してください。
ポイント
本件においては、信託財産を対象として融資を受けるという依頼者のニーズを実現するための実務的な手続き対応が不十分であったことがトラブルの原因になってしまいました。
家族信託の案件を受任する際には、依頼者のニーズを踏まえた設計が重要であることは言うまでもありません。
その際、専門家としての責任は、依頼者のニーズを踏まえて信託契約書を作成することだけで足りるものではなく、実際に当該信託契約書に基づいて依頼者のニーズが実現できるのかという点についてまで、十分な調査と、依頼者への説明が必要です。
専門家として、十分な注意を払いつつ、依頼者の方々のニーズを実現する財産管理・財産承継に貢献して行きたいものです!
相続と不動産で困った時の一番初めの相談先
弁護士・税理士・宅地建物取引士 中澤 剛
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