みなさんこんにちは。
相続と不動産で困った時の一番最初の相談先、
相続と不動産のパーソナルアドバイザー、税理士 兼 弁護士の中澤剛です。
この記事では、遺贈と、これにまつわる遺言の知識について、弁護士が解説します!
遺贈とは
遺贈は、被相続人(亡くなった人)が、遺言によって、自分の財産(遺産)を相続人又は第三者に与える行為です。
ポイントは、遺贈は遺言によって財産を移転させるので、相続人の話合い(遺産分割協議)などは不要で、財産が移転するということです。
遺贈は、契約などと違い、財産をもらう相手(相続人または第三者)の承諾なく、一方的に行うことができます。
遺贈の2種類 特定遺贈と包括遺贈
遺贈には2種類あります。
特定遺贈と包括遺贈です。
特定遺贈
特定遺贈というのは、その名のとおり、特定の財産を遺贈するものです。
「自宅の不動産を長男に遺贈する」
「現金100万円を田中さんに遺贈する」
といったようなものです。
包括遺贈
包括遺贈というのは、遺産の全部または一部の割合を遺贈するものです。
「遺産の60%を鈴木さんに遺贈する」
といったようなものです。
そして、この例の鈴木さんのように、包括遺贈を受けた人のことを「包括受遺者」といいます。
包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有するとされていて、相続人と同じような扱いを受けます(厳密には同じではないのですが、細かいのでここでは触れません)。
先の例では、鈴木さんは
- 遺産分割協議に参加しますし、
- 債務についても60%は負担することになりますし
- 遺産が不要であれば相続放棄が必要となる
など、他の相続人と似た扱いとなります。
包括遺贈はほぼ相続と思ってください。以下は、特定遺贈についての話です。
遺贈と相続の違い
「遺贈」によって財産を得るのと、「相続」によって財産を得るのとでは、どう違うのでしょうか。
相続による財産の承継は、その名のとおり、相続人であること、つまり、血の繋がりのあること(あるいは配偶者であること)を理由に財産を承継するわけです。当然のことですが、相続人でなければ相続できません。
これに対して、遺贈は、相続とは関係ありません。
受遺者となるためには、相続人であってもいいし、相続人でなくてもいいのです。
相続人でなくとも、受遺者となることはできます。
例えば、上の図で、Cは相続人ですが、同時に受遺者でもあります(相続人 兼 受遺者)。
受遺者Cが相続を放棄すると、相続人ではなかったことになります。
とはいえ、相続人ではなかったとしても遺贈とは関係がなく、受遺者の地位は残ります。
そのため、相続人である受遺者Cが相続を放棄したとしても、相続人ではない受遺者になっただけですので、Cは、遺贈された財産(ここでは自宅マンション)をもらうことができます。
遺言で「相続させる」と書いたらどうなるか!? 相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)と遺贈との違い
遺言で、
「自宅マンションを長男に相続させる」
と書いたら、どうなるでしょうか。
「自宅マンションを長男に遺贈する」
と同じでしょうか。
両者はほとんど同じですが、最後の表現が、「相続させる」なのか、「遺贈する」なのかだけが違います。
どちらも、遺言によって財産を移転するという内容なのだから、どっちも遺贈なのではないか!?と思いますよね?
ところが、この2つは全く別ものなのです。遺言を作成する際には、「相続させる」と書くのか、「遺贈する」と書くのかによって、大きな違いがあるので、注意が必要です。
判例によると、「相続させる」旨の遺言は、特段の事情のない限り「遺贈」ではなく「遺産分割方法の指定」であると解されています。
「遺産分割方法の指定」とはかみ砕いて言うと、「こういう風に遺産分割協議をしてね」という指定のことです。
例えば、「自宅の不動産を長男に相続させる」という遺言は、
「遺産分割協議(遺産分割をめぐる相続人の話合い)の際に、自宅の不動産は長男がもらうという遺産分割をしてね」、という遺言による指定である、ということです。
遺産分割のやり方の指定なので、相続人は遺産分割をすることになるわけです。(理論上は。実際には、最高裁の判例によって、「相続させる」旨の遺言の場合にも遺産分割は不要とされていますが、議論が混乱するのでここでは割愛します)。
遺産分割をするということは、「相続させる」という遺言による財産の承継は、相続としての財産の承継なのです。
さきほど、「遺贈と相続の違い」を説明しました。
遺贈は血の繋がりとは無関係の財産の移転です。
血の繋がりによる財産の移転である相続と遺贈は別物です。
そして、相続させる旨の遺言は、血のつながりである相続による承継であり、遺贈ではない、ということになります。
相続を放棄した場合で比べてみると、分かりやすいです。
相続させる遺言がなされた場合に相続放棄をしたら、その財産を相続できません。
しかし、受遺者は、相続を放棄しても、遺贈の対象財産をもらうことができます。
「自宅マンションを長男Bに相続させる」という遺言の場合は、長男Bが相続を放棄した場合、相続人ではなくなるので、長男Bは自宅マンションを取得することはできません。
他方で、「自宅マンションを長女Cに遺贈する」という遺言の場合には、長女Cが相続を放棄し相続人ではなくなったとしても、受遺者であることには変わりがないので、長女Cは自宅マンションを取得することができるのです。
今後の遺言実務は「遺贈する」が主流になる(私見)
今までは、相続人に対して財産を承継する際には、「相続させる」旨の遺言が主流でした。
それは、今までは、「相続させる」旨の遺言に、遺贈よりも数々のとても大きなメリットがあったからです(詳細は割愛します)。
しかし、平成30年相続法改正及び令和3年民法・不動産登記法等の法改正によって「相続させる」旨の遺言のメリットはほとんどなくなりました。
むしろ、先ほどのように相続を放棄したら財産を受け取ることができなくなるなど、デメリットの方が大きいです。
そのため、今後は「相続させる」旨の遺言は特殊な場面以外では使われず、「遺贈する」旨の遺言が主流になると予想しています。
細かいですが、相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)と遺贈との相違は以下のとおりです。
相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言) | 遺贈 | 相続人にとってどちらが有利か
|
|
性質 | 相続 (遺産分割方法の指定) | 遺贈(相続とは無関係。つまり、血の繋がりの有無とは無関係) | – |
登記手続 | 単独申請
(遺言書のみで可能) |
単独申請
(遺言書のみで可能) |
差は無い |
対第三者の対抗要件 | 必要 | 必要 | 差は無い |
借地権・借家権を取得した場合の地主の承諾の要否 | 不要 | 必要 | 相続させる旨の遺言が有利 |
相続を放棄したらどうなるか | 財産を承継できない | 受遺者としての立場で財産を承継できる | 遺贈が有利 |
相続人が、その財産を個別に放棄することの可否 | 不可
(相続放棄するしかない) *高裁の裁判例 |
可能(一部のみの放棄もできる) | 遺贈が有利 |
配偶者居住権の設定の可否 | 不可
(相続人が、配偶者居住権を放棄できるようにするため) |
可能 | 遺贈が有利 |
持戻し免除の推定(民法903条4項)の適用 | なし
*ただし、事実上持ち戻し免除と扱うことは可能か |
あり | (遺贈?) |
代襲相続はあるか | ある | ない(受遺者死亡の場合の財産の承継先の指定が必要) | 差は無い(ただし、遺贈の場合に代襲相続と同じ効果を発生させるためには手当が必要) |
農地法3条の許可 | 不要 | 不要 | 差は無い |
遺産分割協議の要否 | 不要 | 不要 | 差は無い |
登録免許税 | 0.4% | 0.4% | 差は無い |
上記の表は、令和3年民法等改正の結果なのですが、これをご覧いただくと分かりますが、ほとんどの点で遺贈と相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)との優劣はありません。
相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)のメリットは、借地権・借家権の承諾が必要という場面に限られ、他方で、個別の放棄が可能であること等、遺贈の方がメリットは大きいと考えられます。
そうすると、今後、遺言実務において、相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)は、借地権や借家権の対象となっている不動産を除いて、それほど使われなくなるのではないか、と考えています。
とはいえ、この点はまだまだ弁護士や司法書士、行政書士などの専門家でもご存知でない方も多いです。
また、遺贈にするに際しては、代襲相続が生じないことなど、注意するべき点、手当が必要な点もあります。
遺言を作成する際に、専門家の方から「相続させる」という内容で遺言を勧められたら、「遺贈する」ではダメなのか、と聞いてみてください!
当事務所では、遺言の作成も行っております。
迷われた方、遺言の作成をお考えの方は、お気軽にご相談いただければと思います。
相続と不動産で困った時の一番初めの相談先
弁護士・税理士・宅地建物取引士 中澤 剛
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