「不動産が共有になっているけれど、共有者の一人が反対していて、処分できなくて困っている」
そんな悩みをお持ちの方もいらっしゃると思います。
この記事では、
相続と不動産で困った時の一番最初の相談先、
相続と不動産のパーソナルアドバイザー、税理士 兼 弁護士の中澤剛が、
共有者の反対がある場合の共有不動産の処分方法を解説します。
反対が無い場合
そもそもですが、共有者全員の意見が一致している場合(反対が無い場合)には、全く問題ありません。
共有者全員が必要な書類(例えば、売買契約書や、業者さんとの媒介契約書)にサインをして、進めていくだけです。
反対がある場合の、共有になっている不動産の分け方
それでは、共有者の中に反対者がいる場合の、共有不動産の処分の方法を、具体例で見て行きましょう。
ある土地を、太郎と花子の2人が、太郎5分の3,花子5分の2の持ち分で共有しているとします。
太郎はこの土地を売りたいと思っていますが、花子は反対しています。
このような時、太郎はどうしたら良いのでしょうか。
大きく分けて、
- 共有状態から自分だけ抜ける方法
- 共有状態自体を解消する方法
の2つがあります。
順に見て行きます。
共有状態から自分だけ抜け出る方法
太郎としては、花子さんとの共有状態にはウンザリ、ということで、
太郎としては、共有関係から離脱したいのであれば、
- 太郎自身の5分の3の持ち分を誰か(太郎と花子以外の者)に買い取ってもらう
- 自身の共有持ち分を放棄する
という方法も有り得ます。
順に見て行きます。
持ち分を誰かに買い取ってもらう方法
例えば、太郎が、自分の5分の3の持ち分を業者などに買い取ってもらう方法です。
しかし、この方法だと、安くしか売れないという問題点があります。
例えば、土地全体を売るとしたら5000万円で売れる土地だとすると、単純に計算したら、5分の3である3000万円で売れそうです。しかし、実際には、3000万円で売れることはまずありえず、大幅に値引きした値段でしか売れないのが通常です。
安くしか売れない理由
安くしか売れない理由は、使い道が乏しいからです。
5分の3の持ち分を太郎から買った人(業者)は、その5分の3を自由に使えるかと言ったら、そんなことはありません。
業者は、太郎の共有者という窮屈な立場を引き継ぎ、花子とこの土地を共有することになるわけです。
何をするにも、花子と話し合い決めなくてはいけません。
結局、不便な共有のままなのです。
※不動産の共有の大変さについては、こちらの記事をご覧ください
「せっかく土地を買ったのに、自分の自由に使えない土地だった。」
そんな土地、誰も買いたいと思いませんよね。
だから、安くしか売れない、というわけです。
ちなみに、買取業者は、安く買った後で、共有状態から解消する方法を用いるなどして、高く売却することで、差額の利益を得ることでビジネスをしています。
自身の共有持ち分を放棄する方法
こんな面倒な関係はもう嫌だ、ということで、太郎としては、自身の持ち分を放棄することもできます。
放棄をするのですから、太郎が利益を得ることはできません。
しかし、毎年、共有者であるだけで固定資産税を支払わなくてはならないので、自由に使えないのにお金だけ出ていくような状態よりは、放棄してしまった方がマシだという判断もあり得るでしょう。
この場合は、太郎としては、花子の意思に関係なく、自分だけで5分の3の共有持ち分を放棄する、ということもできます。
この場合、放棄された5分の3は花子のものになります。
共有状態自体を解消する方法
先ほどまでは、太郎が共有状態から抜け出る方法として、共有持ち分を売却する方法と共有持ち分を放棄する方法を見てきました。
続いて、共有状態自体を解消する方法です。
太郎が、共有状態を解消する方法には、大きく分けて、以下の3つがあります。
- 現物分割・・・土地を持ち分に応じて切り分ける(分筆する)方法です。
- 換価分割(代金分割):土地を売って、代金を3:2で分ける方法です。
- 価格賠償(代償分割):太郎の持ち分5分の3を、花子に買い取ってもらう方法です。
順に見て行きましょう。
現物分割(分筆)
現物分割とは、共有されている土地を持ち分に応じて切り分ける方法です。
例えば、共有されている土地が100㎡だとします。太郎は持ち分5分の3に応じて60㎡、花子は持ち分5分の2に応じて40㎡に分ける、などと言った方法です。
実際にどのように分けるのがベストであるのかは、土地の状況によってそれぞれです。
たとえば、60㎡の土地上に太郎が家を建てて住んでいて、40㎡は駐車場として貸し出されている、というような場合では、60㎡の土地は太郎のもの、40㎡の駐車場部分は花子のものとする、などといった分け方が有り得るでしょう。
最低敷地面積等の規制に注意
自治体によっては、建築基準法に従い建物を建てるための最低敷地面積が定められている自治体もあります。
敷地が狭すぎると、ゴチャゴチャした街並みになり、日当たりや風通しが悪くなり火災などの災害対策上も問題になってしまうので、このような規制があるのですね。
例えば、最低敷地面積が70㎡と定められている地域では、上記のように太郎60㎡、花子40㎡と分けると、建物を建てることが認められない、ということになります。
建物を建てられないような土地は価値が大きく下がってしまいますから、分筆をすると最低敷地面積を下回ってしまうような地域では、現物分割(分筆)をすることは、現実的な選択肢ではない、ということになるでしょう。
また、道路と2m以上接していなければならないという「接道義務」に違反するような分筆の仕方をした場合にも、建物を建てられなくなってしまいます。分筆の場合には、その分筆の仕方で建物が建てられるのか、細心の注意が必要です。
換価分割(代金分割)
土地を売って、持ち分に応じて分ける方法です。
例えば、土地が5000万円で売れたら、これを太郎3000万円、花子2000万円に分ける、と言う方法です(分かりやすくするため経費や税金は無視しています)。
持ち分どおりでお金に分けるので、シンプルで、公平な方法ですね。
土地を利用し続けたい、といったような事情がない場合には、選択しやすい方法です。
ただ、共有者のいずれかが土地上に居住している、というような場合には、売却してお金にするというわけにはなかなか行きません(現物分割や価格賠償がどうしても難しい場合に最終手段として行うことになるでしょう)。
価格賠償(代償分割)
共有者が、自身の持ち分を、他の共有者に買い取ってもらう方法です。
例えば、太郎の5分の3の持ち分を、花子に買い取ってもらう方法です。
花子がこの土地を使用している(例えば、土地上に建物を持って居住している)ような場合には、この方法も選択肢に入ってくるでしょう。
太郎の持ち分を他人(業者)に買い取ってもらう場合と違って、共有者である花子に買い取ってもらう場合には、花子は買い取った後の土地を全て使うことができます。
ですから、太郎としては安く処分する必要がなくなる(高く売ることができる)、というわけです。
逆に言えば、花子としては、太郎の持ち分5分の3を買い取るだけの十分な資金が必要、ということになります。花子が借入等をすることを踏まえてもそのような資金的な余力が無い場合には、代償分割の方法はなかなか難しい、ということになるでしょう。
各方法の組み合わせ
上の3つの方法を組み合わせた分割方法、と言うのもあり得ます。
例えば、100㎡の土地を太郎が70㎡、花子が30㎡と現物分割する代わりに、太郎が多くもらった10㎡分の代金について花子に支払いをする、といったような方法です(現物分割と代償分割の組み合わせ)。
結局どの方法なの?
以上の代表的な3つの方法を含めてどのように分けるのかについては、太郎としては花子と話し合いで決めることができます。
しかし、話合いではどうしても決まらない場合には、裁判所に訴えることになります(共有物分割の訴え、と言われる訴訟です)。
その中で、裁判所が、そのケースに応じて最も適切な分割方法を判断していく、ということになります。