相続紛争

節税のための生前贈与がトラブルに

みなさんこんにちは。

相続と不動産で困った時の一番最初の相談先、

相続と不動産のパーソナルアドバイザー、税理士 兼 弁護士の中澤剛です。

 

相続税の節税のために生前贈与が行われることがあります。

子に110万円の生前贈与を毎年にわたり行う、というような話を聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

しかし、この生前贈与は、いざ相続が起きると、トラブルのもとになりかねません。

この記事では、節税対策が争族を招くリスクがある、ということを説明したいと思います。

生前贈与は節税対策としては有効

生前贈与は、節税対策としては有効です。

相続開始前7年より以前の生前贈与であれば、相続税の計算上、加算されません(令和5年12月31日までであれば、相続開始前3年より以前の贈与であれば、加算されません)。

相続税は基本的に遺産に対して課税されるので、生前贈与で遺産が減れば(贈与税が発生する可能性はありますので、贈与税との兼ね合いは大切ですが)、それだけ相続税が減る、ということですね。

生前贈与は特別受益に

とはいえ、生前贈与は、「特別受益」にも該当する可能性があります。

特別受益とは、簡単に言えば、被相続人の生前に多額の財産をもらった相続人がいる場合には、その多額の財産も遺産として扱い処理しましょう、という制度です。

そもそも特別受益って何? 特別受益が認められたらどうなるの?

という疑問をお持ちの方は、こちらの記事で分かりやすく説明していますのでご覧ください。

生前贈与が特別受益に該当する可能性が出てくると、相続人の間で想定外のトラブルになり得ます。

次の例を見てみましょう。

特別受益を考慮しない場合

父親は、亡くなる8年前に、妻に4000万円を贈与していました。

父親としては、死亡時遺産である残った1億円を、単純に法定相続分で妻と子で分けて欲しいと思っていました。妻もそのつもりでいました。

つまり、妻に5000万、子にも5000万ずつ、父も母も考えていたこととなります。

妻への4000万の生前贈与は考慮しません。妻がもらったままです。

これが、父親や妻の想定でした。

ところが、子が、4000万円の贈与について、特別受益を主張する可能性があります。

特別受益の制度とは

もしも子の主張が認められ、生前贈与の4000万円の特別受益が認められたとします。

この場合、妻への生前贈与4000万円をいったん(想像の中で。あるいは計算上)遺産に戻します。この処理を「持ち戻し」といいます。

4000万円を持ち戻すので、遺産は1億4000万円であると計算されることになります。

この持ち戻し後の計算上の遺産(今回のケースでは1億4000万円)を、「みなし相続財産」と呼びます。

特別受益の制度では、このみなし相続財産を、法定相続分に応じて相続人に分けます

1億4000万円を2分の1ずつに分けるので、妻も子も7000万円ずつ分けることになります。

その結果、子は遺産から7000万円もらえます。

妻も遺産から7000万円もらえるか? というと、もらえません。

妻が遺産からもらえるのは、持ち戻した4000万円を引いた7000万4000万の3000万円のみです。7000万のうち4000万円はもともと貰っているだろう、ということですね。

これを分かりやすく違った観点から図解すると、以下のとおりです。

もともと、夫や妻は、妻は遺産から5000万円、子も遺産から5000万円、という想定だったのでした。

ところが、実際には、特別受益が考慮されると、子が7000万円もらう一方、妻は、遺産からは3000万円しかもらえません。

子は、父や妻の想定よりも2000万円も多くもらえることとなる一方、妻は想定よりも、2000万円も少ない額しかもらえないこととなるのです。

このような想定外のトラブルが起きる可能性があるのです。

生前贈与をするときは、持戻免除の意思表示が重要

先ほどのようなトラブルを防止するためには、生前贈与をするときは、併せて、持ち戻し免除の意思を表示することが必要です。

生前贈与をその者の特別な取り分として与えようという意思(これを「持戻し免除の意思」といいます)を表示しているときは、特別受益の対象となりません。

下の例を見てみましょう。

夫が、妻に4000万円を生前贈与していたが、持戻し免除の意思を表示していたとします。

このケースでは、特別受益の制度がない場合と同じ処理をします。

つまり、死亡時遺産の1億円を単純に法定相続分で、妻に5000万、子に5000万ずつ分けることになります。

妻への4000万の生前贈与は持ち戻ししません。妻がもらったままです。

その他の問題

今回の例では、贈与財産が現金を想定していましたが、株式や不動産など値段が変動するものを贈与した場合には、話がさらに複雑になります。

また、遺留分への配慮も必要となります。

この点についても、記事を改めて解説したいと思います。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

ABOUT ME
弁護士 中澤 剛
相続と不動産の法律と税金を専門に扱う千代田区内唯一の弁護士 兼 税理士。 相続紛争など、家族にまつわる紛争案件と紛争案件の経験を生かした紛争予防(相続紛争や認知症によるトラブルの生前対策、税金対策)が強み。 「幸せの土台は家族関係」という想いから、日本中に感謝と敬意のある家族関係が増えることを目指して活動中。 息子(10歳)&娘(7歳)の父。 2010年弁護士登録。2018年税理士登録。 東大法学部卒。東大ボート部出身。淡青税務法律事務所所長。 倫理法人会、中小企業家同友会所属。
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