相続の放棄と事実上の相続放棄、とてもよく似た言葉ですが、その意味は全く違います。
それぞれ、どう違うのか、お客様からご質問を受けることも多いです。
そこで、この記事では、相続の放棄と事実上の相続放棄の違いについて、
相続と不動産で困った時の一番最初の相談先、
相続と不動産のパーソナルアドバイザー、税理士 兼 弁護士の中澤剛が解説します。
相続の放棄
相続の放棄とは、被相続人(亡くなった人)の相続人が、はじめから相続人とならなかったことになる手続きです。
たとえば、被相続人Aに配偶者Bと子CDと両親EFがいるとします。
このとき、子Cが相続放棄をすると、Cは初めから相続人とならなかったものとなります。
その結果、配偶者Bと子Dが相続人となる、ということです。
もしも子Cと子D二人ともが相続放棄をすると、CもDも初めから相続人とならなかったものとなります。
その結果、配偶者Bと、両親EFが相続人となる、ということです。
このように、相続人の順位が変わる可能性があることは、相続放棄の特徴であり、注意すべき点でもあると言えるでしょう。
負債(借金)が多いときなどに使われる
相続の放棄はどのような時によく使われるのかというと、被相続人(亡くなった方)の借金が多いときや、被相続人の借金の額が不明のときによく使われます。
たとえば、被相続人の借金が2000万円、預貯金が100万円というようなときには、借金の方が多いので、相続をしても損ですから、相続放棄をする、というわけです。
詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
相続の放棄は、家庭裁判所で
相続の放棄を行うためには、被相続人の死亡を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所で手続きを行う必要があります。
相続の放棄をするためには、原則として、被相続人の死亡を知った日から3ヶ月以内にしかできないので、注意しましょう。
手遅れになりそう、という方は早急に専門家に相談されることをお勧めします。
事実上の相続放棄
事実上の相続放棄とは、
- 相続人が、自分の相続分を他の相続人又は第三者に譲渡したり(相続分の譲渡)、
- 遺産分割協議において自分が何も相続しなかったりすることで、
相続財産に対して取り分を主張しないことです。すでに被相続人から特別受益を受けているとして、自分に相続分がないことを証明する文書「相続分無きことの証明書」を作成することで行われる場合もあります。
弁護士としての経験上、一般の方が、「相続の放棄をした」とか「相続分の放棄をした」と言う場合、実際の意味としては、事実上の相続放棄を指すことが多いように思われます。
事実上の相続の放棄は、結果的には、何も相続しないことになる(遺産をもらえない)という点では、相続の放棄と同じです。
借金を免れたいのであれば、相続の放棄
相続の放棄は被相続人の借金(負債)を引き継がないのに対して、事実上の相続放棄の場合には、被相続人の借金(負債)から逃れることはできなません。
ですから、被相続人に多額の借金がありそうなときに、事実上の相続放棄をすることは、借金を引き継いでしまうリスクもあります。相続の放棄を行う方が、そのようなリスクはなく安心です。
生命保険の非課税の適用を受けたいなら、事実上の相続の放棄
相続の放棄をすると、相続人ではなかったことになるので、生命保険の非課税を受けられません(非課税枠の計算上は、放棄がなかったものと扱われます)。
これに対して、事実上の相続の放棄であれば、生命保険や死亡退職金の非課税が適用できます。
ですので、生命保険や死亡退職金の非課税の適用を受けたいのであれば、相続の放棄ではなく、事実上の相続の放棄にするべきです。
相続人の順位を変えたくないなら事実上の相続の放棄
先ほど述べたように、相続の放棄だと、相続人の順位が変わってしまいます。
先ほどの具体例のように、配偶者と子が相続人の場合に、配偶者に全財産を相続させようと子が相続の放棄をすると、配偶者と親が相続人になる、というようなケースがあるのです。
配偶者に全財産を相続させたいのであれば、子としては、相続の放棄ではなくて、事実上の相続放棄で対応するべきです。
相続と不動産で困った時の一番初めの相談先
弁護士・税理士・宅地建物取引士 中澤 剛
平日9:30~17:00受付
03-5521-0355